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ミニさがみは、新潟授業6本から30の技術を学びとった
授業の原則十ヶ条・完全クリアー
〜伴氏の2年・国語授業から〜

 

浅川 清(TOSS相模原)

1.じらしと挑発

 鮮やかな焦らしと挑発の技術が、強い印象を残す授業だった。授業の山場で子どもたちが叫んだ「お願いします!(もっと勉強させて下さい)」の声が、今も耳に残っている。

2.変化のある繰り返し

 少しずつ難しくなっていく課題が次々に提示される授業だった。「おもしろそう!」「これならできそう!」と身を乗り出して課題に挑戦していく子どもたち。「変化のある繰り返し」が、子ども達を捉えて離さない45分間だった。

3.授業の原則十ヶ条・完全クリアー

 1月、ミニさがみサンエールクラブで、伴氏の授業ビデオを見た。一人ずつ箇条書きにした「気づいたこと」を順に発表していった。重なりは避けて発表していったのだが、五巡、六巡しても発表は途切れなかった。七巡、八巡しても途切れなかった。

 ようやく「気づいたこと」が出尽くした後、それらを括る作業に移った。向山氏が示した「授業の原則十ヶ条」に当てはめていったのだ。その結果、次のことが分かった。

 伴氏の授業は、「授業の原則10ヶ条」の第1条から第10条までを、全てクリアーしていた。

 以下に、それを詳述する。  

(1)細分化の原則

 いきなり難しい学習には行かない。易から難へのステップが細かく設定されていた。

 授業開始前のわずかな時間を使って「50音チャレンジャー」で遊ばせた。時間調整と共に、子ども達の緊張をほぐす効果もねらってのことだと考える。

@50音チャレンジャーで遊ぶ。

A「 とする」という形の言葉を見つける。

B「 」という形の言葉を見つける。

C「 」という形の言葉を見つける。

D「 」という形の言葉を見つける。

 授業は、上記のような5つの細分化されたステップで進められた。

@の学習で、子どもたちは「言葉を見つける」とは、どのようなことなのかを体験を通して理解する。だから、Aの学習にすんなり入っていける。

Aの学習は、「とする」が示されている分、Bよりも見つけやすい。おまけに動作化もしやすい。ここで動作化を取り入れたことで、子ども達は一つ一つの言葉の意味を体感することができた。「言葉」に命が吹き込まれた。

Aの学習をしているから、Bの学習が「どの子にもできる」ようになる。Bの学習をしているから、Cの学習ができる。@からCの学習をしているから、Dの学習が可能になる。

 必然性を持った、ステップの「細分化」があった。

(2)激励の原則

「焦らす」のも「挑発する」のも、形を変えた「激励」だと考える。 

「そこまでやるか」というくらいに、伴氏は子ども達を焦らし、挑発し、

「そこまで熱くなるか」というくらいに、子ども達は熱中していた。

教師:やりたい?
子ども:やりたい。
教師:やりたいの。・・・じゃあ、やめよう。
子ども:やりたい!
教師:そんなにやりたいの。じゃあ・・・やっぱりやめよう。
子ども:やりたい!!
教師:「お願いします」は?
子ども:お願いします!
教師:しょうがないなあ。じゃあ、やってあげようか。

 子ども達の自尊心をくすぐり、挑戦意欲を引き出している場面もあった。

教師:先生のクラスで50点しか取れなかった問題があるけど、やめる?
子ども:やる!

 子ども達が高得点を獲得した後には、次のような「激励」の言葉が投げかけられた。

教師:
気に入らないなあ。先生のクラスが50点で、みんなが60点なんて、先生のクラスの子がかわいそうだ。気に入らないから、もうやめよう。

 これでは、子ども達は、やめるはずがない。

(3)確認の原則

 「名前を書けた人は手を挙げて」と、指示されたことがきちんとできているかどうか、確認している。  

(4)簡明の原則

 伴氏の発する言葉の一つ一つが、非常に短い。1文節とか2文節くらいの言葉が多い。「まだある」「あった!20点」「ほっとしてごらん」「95点!おしいなあ」

(5)個別評定の原則

 見つけた言葉を板書させ、ひとつずつに○をつけ、認めている。片仮名で書くべき言葉は書き直させている。  

(6)空白禁止の原則

 ゆったりした雰囲気を保ちながら、心地よいテンポで授業が進んでいる。

 わずかな「空白」も作らない組み立てをしているからだ。例えば次の場面だ。

@前の子が黒板に書いている間に(書き終わらないうちに)次の子を指名している。
A一人の子が板書を書き直している間に、他の子には次の指示を出している。
B「立った人は立ったままで、次考えてね。2つ3つと書くんだよ」と指示している。

 前のことが終わり切るほんの少し前に、次のことがスタートしているというイメージである。

(7)一時に一事の原則

 短い指示で、たったひとつの作業をさせ、それができたことを確認したら、また短い指示を出して次の作業をさせるという組み立てになっていた。

(8)所時物の原則

  スマートボード自体が、すごい「物」だ。入っているコンテンツがまた、すごい「物」 だ。これだけで充分な「物」を用意したと言える。

(9)全員の原則

 教師の指示が全員に通るのはもちろんのこと、子どもの発表にも全員が集中できるよう、「鉛筆は筆箱にしまう」ことを徹底させていた。

(10)趣意説明の原則

 子どもたちが授業に熱中しているので、趣意説明が必要な場面はほとんどなかったが、鉛筆を筆箱にしまわせる時は、「転がらないように」と、趣意を説明していた。

4.気づいたことノート

 ビデオを見ながらノートしたことをランダムに書いてみる。

1:余計な前置きは一切なし。いきなり例題から授業をスタートさせた。

2:「ほっとする」という言葉を子どもが発表した直後、「ほっとしてごらん」と身体表現をさせた。これで教室の空気が一気に和んだ。2年生相手の授業ならではの指示だ。

 きっと伴学級の子ども達も「ほっと」したり「かっと」したりしたに違いない。

3:一人一人の子どもを、名前で呼んでいた。 

4:立った途端に答えを忘れた子に対して「忘れていいんだよ」とフォロー。極度の緊張状態にいる子ども達を、あたたかく支える言葉だ。

5:子ども達から、更に多くの考えを引き出す時の言葉がけも、短く削られていた。

「まだある!」

6:藤井氏が作った「50音チャレンジャー」を、このように加工して使うという発想もあるのかと驚かされた。

7:ゆったりとした話し方と、抑え目のトーンの声で、授業が始まった。ぎっしりの参観者に囲まれて、初対面の教師の授業を受ける子ども達の緊張を解きほぐすには、最適な始 まり方だと思った。

8:指示を聞いてすぐに名前を書いた子を、ほめた。授業開始早々のほめ言葉だ。これでまたひとつ、子ども達の緊張感がほぐされたことだろう。

9:「名前を書きなさい」という指示の後、「名前が書けた人は手を挙げなさい」という確認が入っていた。どんな時も、原則は外さないのだ。

10:少しずつ子どもの先回りをする指示で、空白が全く生じなかった。

11:椅子を引いたまま前に出てきた子どもに対して「椅子を入れていらっしゃい」と指示を出していた。どんな場合も、しつけるべきところは、ゆるがせにしないのだ。

12:初めてのことをさせる時は、必ず例示をしていた。だから、どの子も参加できるのだ。

13:子ども達が書いている時、机間巡視しながら「10個書いてる人がいる!」と声に出し、他の子ども達をあおっていた。

14:子どもの書いたものを見る時、頭をなでていた。

15:発表を聞く場面では鉛筆をしまわせ、「聞く」ことだけに集中できるようにしていた。

16:発表の仕方も「『はっぱです』と言うんだよ」と、例示していた。

17:前の子が「ヨット」と書いている途中で、次の子を指名し、テンポのよさを生み出していた。

18:板書された子どもの考え一つ一つに○をつけながら、平仮名で書く言葉と片仮名で書く言葉の違いを、しっかり指導していた。「十」も「銃」もあるということなども、さり げなく指導していた。

19:子ども達が板書した言葉の一つ一つに○をつけ、認めていった。子ども達の緊張感が更にほぐれ、自信を持って発言する子が増えることにつながったと考えられる。

20:「マッハ」と書くべきところを「マシハ」と書いた子がいたが、伴氏は間違いを指摘しなかった。本筋の学習から外れるので、あえてそうしたのだと考えられる。

21:返事をして答えた子に対して、すかさず「えらいなあ、返事して」というほめ言葉が入った。

22:片仮名で書くべき言葉を平仮名で書いた子に、「自分で直してごらん」と指示。その子の自尊心を大切にする指示だった。

23:片仮名に直させている間に、次の子を指名。この間合いがさすがと思わせた。

24:いくつ書けたか聞く場面。数が多くなるほどカウントする声に力がこもり、ほめ言葉が加わる。子ども達にとって、学習のしがいがあるカウントの仕方だった。 

25:新しいプリントを配る前に、前のプリントをしまわせていた。「今、やるべきことに、集中させる」ためには、忘れてはならないことだった。

26:スマートボード上に、子どもの発表した言葉が出た瞬間、「あった!20点!」と対応。

 発表した子どもだけでなく、全体が盛り上がる言葉かけだった。

27:「おっちゃん」という言葉を子どもが発表したときの伴氏のリアクション。「おっちゃん?」と、ややオーバーに呆れてみせた。「なに?『ひっひっひ』?」も同様。これで、 また盛り上がった。絶妙な対応の技術だ。

28:スマートボード上で答えを確かめるときにも、焦らしの技術が使われていた。

29:スマートボードに入力してない言葉は、その場で書いてやっていた。

30:子どもの自尊心をくすぐる言葉かけが随所にあった。「先生、気づかなかった」「みんなの方が先生よりすごいや。気に入らないからやめよう。もう先生いやになっちゃった」

31:焦らしの技術も随所にあった。「『言わせて下さい』は?」「しょうがないなあ、じゃあ 『お願いします』は?」

32: 完全ではない答えに対して「悪くない」という言葉で認めていた。

33: 「くっくっく」という言葉が出てきた時の対応も絶妙。そんな元気よくやらないな。(声をひそめて)くっくっく・・・いやらしい笑いだな」

34:とっさの対応が鮮やか。「『お願いします』が早かったからね。○○君、言ってよし」

35:「日本中さがしても57個しかない。2年生が知ってるのは10個くらいしかない」と断言できる教材研究の奥深さ。

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