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向山先生の学年別シリーズの本を読み返す・6年
覚悟を決めて対峙する
「6年の授業・6年の学級経営」より

浅川 清(TOSS相模原)


 「オオッ、そこまでやるのか」と、読んでいて、手に汗握るような実践がいくつか出てくる。向山先生が一人の人間として子供達に対峙しているのである。思わず姿勢を正して読み進む。

 

1.「くだらない文だ」と言い切る

 ある女の子が日記に「私の名文」を書いてきた。それに対する返事として向山先生はこう書いた。

 11月4日の文は、名文ではありません。くだらない、いやらしい文です。
文に力がありません。
(※向山洋一・著 明治図書「6年の授業・6年の学級経営」P73より)

 ここで、まず私は驚いた。驚いたが「もしかしたら、私もこのくらいのことは書くかも知れないな」と思う余地が、ちょっぴりあった。さて、「くだらない文です」と書かれた女の子は、日記で反論してくる。かなり怒った調子で。それに対する向山先生の返事を読んで、「うわっ、私にはとても書けない、そんなこと!」と今度こそ降参した。向山先生は、こう書いたのだ。

 もう一度いう。あの文は「いやらしい、くだらない文」だ。
(※前掲書 P76より)

「いやらしい、くだらない文」だと断言しなおかつカギ括弧をつけて、そのことを強調しているのだ。これは、普通の教師にはできない。普通の教師には、次の2つが、ないからだ。

@「この子は、これくらいのことでは、決してつぶれない」という、子どもへの信頼感。
A「どんな過程を経ても、この子を必ず成長させてみせる」という自信と覚悟。

 二度も「くだらない文だ」と書かれた女の子は、今度は、緻密で論理的な反論を書いてくる。やはり「これくらいのことでは、つぶれない」強さと賢さを持った子だったのである。別の言い方をすると、この子の強さと賢さを引き出したのは、「くだらない文だ」と断言した向山先生なのである。

 この後も「私には絶対に書けないな」と思う言葉が次々に出てくる。中でも凄いと思ったのが、この言葉である。

 人間は、そのような「はずかしさ」を何度も経験して彫られていくのだと思います。
(※前掲書 P82より)

 これが小学生に向けられた言葉なのだ。相手が子供であっても、同じ人間として、全身全霊をもって語りかけている言葉なのだ。

 そして、結果として子供との信頼関係を、それ以前よりも強固なものにしている。

 教師の仕事の、とてつもない深さを、そこに見た。

 

2.問題をえぐり出す

 向山学級に、次のような事があった。 


 気になることがあった。女子のあるグループの動きがぎくしゃくしているのである。不自然なのである。不自然に事を策している子がいるにちがいないのだ。「あの子と遊ぶのよそうね」なんて感じがするのだ。ほんのかすかな動きであるが、それが気になった。
(※前掲書 P176より)


 向山先生は、A子・B子・C子の「ほんのかすかな動き」を見逃さず、ただちに解決のための方策を取る。

そして、その経過を学級通信で、すべて公開する。一切、隠さないのである。これはやはり、次の2つがあるからこそ、できることであろう。

@子供達への絶対的な信頼感 =「この子達なら乗り越えられる」 という確信
A解決への自信と覚悟=「何があっても解決してみせる」 という決意

 そうして問題の本質を鋭くえぐり出しつつ、学級通信を発行し続けるが、この時は母親や子どもからストップがかかり、途中で追究をやめている。しかし、その頃には、「問題にしたい動き」は、とうに消滅していた。ここまで覚悟を決めた教師に、真摯に追究されたら、「不自然な動きを策していた」子達も、自分の弱さ・醜さに向き合わざるを得ないだろう。

 問題が解決した後の学級通信に書かれた次の言葉に、また唸らされる。

 私は、A子もB子もC子も大好きである。私の大事な大事な教え子である。
私にとっての教え子とは、たとえその子が犯罪を犯そうと、かくまってしまう存在なのだ。
(※前掲書 P192より)

 鋭く対峙した後の、この愛の示し方はどうだ。教え子をどこまでも包み込む、この愛の深さはどうだ。A子もB子もC子も、その親も、「この先生についていこう!」と思ったことだろう。

 

3.うそを見抜く

 日記をまとめて書いてきた子のうそを見抜く場面にも圧倒された。決して声を荒らげてはいないのに、すごい迫力なのである。

 「何日分まとめて書きましたか」と、私は少し強く言う。ほとんどの子は「毎日書きました」と言う。私は、余分な事は言わずに「何日分まとめて書きましたか」ともう一度聞く。子供は、ここらまでは平然と「毎日書きました」と言う。

 私は、機械的に続ける。「何日分まとめて書きましたか」教室の中はシーンとしてくる。聞かれている子供の表情が変わってくる。自信なさそうに「毎日書いてます」と言う。私は続ける。「あと一回だけ聞きます。何日分まとめて書きましたか」子供はポロッと涙をこぼして「四日分です」と答える。
(※前掲書 P31より)

 まとめ書きの弱点を知り尽くし、うそを見抜ける眼力があり、ごまかしは許さないという気構えがあるから、できる技である。

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