何気なく見ていたテレビの中で、貫戸朋子氏が、彼女の母校・京都大学付属小学校の6年生を相手に授業をしていた。NHKの「ようこそ先輩」という番組だった。
5分たたないうちに、画面から目が離せなくなった。吸い付けられるようにテレビに近づいて見た。衝撃だった。
「国境なき医師団」で働く貫戸氏のところに、明らかにもう助からないと分かる子どもが運びこまれて来た。
「その子のために貴重な酸素ボンベの酸素を使うべきかどうか」という問題が、付属小の6年生達に突きつけられる。子ども達は必死で考え、討論する。
「何が正義なのか」という新たな問いを残して、最初の討論に区切りがつく。
次なる問題は「貫戸朋子の生き方は損か得か」。
「得だ」という意見が大勢を占めたところで出された最後の問題は「自分だったらどうするか」。
これは我がクラスの子ども達にも見せたいと思った。再放送の日時を確かめ、ビデオに録った。
そのビデオを再生しながら、授業プランを考えた。
6年生の3学期、卒業を控えた子ども達に、2時間の授業をした。
発問 クラスで討論する ビデオの中の討論を見る
というサイクルで授業を進めた。以下に授業の様子を示す。
1.ビデオを見せる
前置きはいらない。すぐにビデオを見せる。
付属小の子ども達に、貫戸氏から最初の問題(発問)が出されたところまでを見せる。
貫戸氏から子ども達への最初の問題は、これだった。
発問1 酸素ボンベのスイッチを切るか?切らないか?
2.討論させる
(1)ノートに自分の考えを「切る」「切らない」で書かせた。
(2)挙手で、それぞれの考えの人数を確かめた。
(3)そう考えたわけを書かせた。
(4)討論させた。
以下に討論の様子を示す。○は「切る」派の意見。●は「切らない」派の意見。
○助かる可能性がないなら、酸素を残しておいた方が、より多くの人を助けられるから。
●助かる可能性が1パーセントでもあるなら助けたいから。
○助からないと「確信」したのだから、他の多くの人を助けるために使うべき。
●もし、その子の母親がそこにいたら、絶対切ってほしくないと思うだろうから。
○すぐ後に、酸素があれば助かる人が運び込まれるかも知れない。その時、後悔したくないから。
●理屈じゃない。目の前にいる子どもを見ていたら、絶対切れない。
3.ビデオの中の討論を見せる
自分達が討論したばかりだから、食い入るように見ていた。
貫戸氏から2つ目の問題が出されたところでビデオを止めた。
発問2 貫戸朋子の生き方は、損か。得か。
4.討論させる
ノートに考えを書かせ、討論させた。
以下に討論の様子を示す。○は「得だ」派の意見。●は「損だ」派の意見。
○自分が本当にやりたいことをやっているのだから得だ。
●とても危険なところで働くわけだから損だ。
○たとえ危険なことがあったとしても、後悔しない程やりたいことがあるのだから得だ。
5.ビデオを見せる
2つ目の問題について付属小の子ども達が討論しているところから、3つ目の問題が出された
ところまでを見せた。貫戸氏からの3つ目の問題はこれである。
発問3 自分だったら、貫戸朋子のような生き方をしますか。
6.討論させる
○する。人の命を助けられるのは素晴らしい仕事だから。
●しない。したくても、勇気がなくてできないと思う。
○する。医者じゃなくても、他の仕事でも、人の役に立つ生き方はできると思うから。
7.ビデオの中の討論を見せる
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