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成功体験による子どもの変容

浅川 清(TOSS相模原)

成功体験の積み重ねにより、どのように子どもが変容していったかの事例を次に示す。

 

(1)出会った時のM君

 M君には5年生の時、出会った。

 素直な子だったが、いつも自信のなさそうな表情をしていた。目に力がなかった。

 家庭環境調査票の「担任へ伝えたいこと」欄には「勉強に対する劣等感がとても強いのでよろしくお願いします」と書かれていた。なるほどと思った。

 

(2)漢字テスト100点がM君をこう変えた

@漢字テストで100点を取ったM君

  5年生の1学期から10問の漢字テストを定期的に実施していた。M君の点数は、いつも10点から30点くらいだった。

  学校での練習時間には真面目に鉛筆を動かす姿が見られるし、「練習してきなさいよ」という担任の言葉にも素直にうなずいて帰るのだが、いっこうに点数は変化しなかった。

  練習の仕方を詳しく教え、叱咤激励した直後には、40点や60点を取ることもあったが、すぐにもとの10点、20点にもどってしまうということが繰り返された。

   ある日、私はひとつのことを試してみた。漢字テストが始まってしばらくしてからM君の席に近寄り、

  「とってもがんばってるから、ちょっとだけヒントを上げるね」

  と言いつつ、まだ書けていなかった漢字を途中まで赤鉛筆で書いてやったのである。
  M君は、ひどく驚いた顔をした。

  「最後は自分で書くんだよ」

  と言って席を離れた。

   採点の結果が出た。

   M君は、初めて100点を取った。

  A漢字テストで100点を取ってM君はどう変わったか?

100点を取る前 100点を取った後
○家庭での漢字練習をしなかった。
○漢字テストのことを自分から話題にすることはなかった。
○学校での漢字練習にイマイチ集中できていなかった。
○家庭での漢字練習をするようになった。
○「次の漢字テストはいつ?」と聞きにくるようになった。
○学校での漢字練習に集中できるようになった。

 上記のような変容を遂げた結果、M君は、赤鉛筆で書いてやらなくても自力で100点を取るようになった。
6年生の1学期のことであった。2学期にはコンスタントに100点が取れるまでに成長した。

 そして、表情が変わった。薄いけれど暗い膜を一枚かぶったようであった表情が、晴れやかに明るくなった。

 

(3)算数テスト100点がM君をこう変えた

  @算数テストで100点を取ったM君

   漢字テストには自信が持てたM君にとっても、算数のテストは手強かった。

   なかなか、100点は取れなかった。

   「惜しくも95点、あと一歩!」という時があった。

  「95点なんて立派じゃないか。ほとんど100点と同じじゃないか」

  と思う私だったが、M君は、ひどく口惜しがり、また、がっかりしていた。

   その様子を見て、次回こそは100点を取らせてやりたいと思った。

   次の次のテストの時、こんな方法を試してみた。テスト開始から30分程たった頃、こう呼びかけた。

  「これまでの算数の時間、一生懸命がんばってきた人達に言いますよ。がんばってき
  たごほうびに、どうしても分からない問題にちょっとだけヒントを上げます。ヒント
  がほしい人は、テストを持って先生のところへいらっしゃい。」

   真っ先にやってきたのがM君だった。テストを見ると8割方はできていた。最後の問題がどうしても分からないという。そこで、解き方を簡単に説明してやった。「そうか!」という顔をしてもどっていった。その後、5人程の子がヒントをもらいにやってきた。M君は、もう一度やってきた。別の問題のヒントをもらいにきたのだ。今度も「そうか!」という顔をしてもどっていった。

   採点の結果、表も裏も見事に100点! 頬を紅潮させ、喜んでいた。大きな声で

  「おれ、初めて100点取った!」

  と、友達に報告していた。

 A算数テストで100点を取ってM君はどう変わったか?

100点を取る前 100点を取った後
○算数だけでなく、他の授業の時も自信のない顔をしていた。
○授業に対する集中力がイマイチだった。
○分からないことがあっても、そのままにしていた。
○ノートの書き方が雑であった。ノート忘れも多かった。
○算数はもちろん、他の教科の授業中にもイキイキした表情を見せるようになった。
○集中して話を聞き、集中してノートを取るようになった。 
○「ここが分からないんだけど」と、質問に来るようになった。
○ノートをきれいに書こうとするようになった。

この「算数テスト100点獲得」の直後、M君自身も驚き、私も大変驚いた出来事がある。

  M君が、初めて表も裏も100点を取ったのが1時間目のことだった。その日の3時間目のことである。国語で詩の学習をしていて討論になった。その時、少数派の一員として論陣を張ったのが、何とM君であった。これまた、初めてのことであった。他の子達も「M君、すげえ!」と驚く発言ぶりだった。その日の日記にM君は、こう書いた。


 今日はぜっこうちょうだった。算数では表も裏も100点がとれるし、国語でもいっぱい意見が言えた。なんで、あんなに意見が言えたのかふしぎだ。」


「初めての100点」の後、M君は、もう2回も100点を達成している。

  B保護者の声

  通知票の「家庭から学校へ」欄に書かれたM君の保護者の声を紹介する。

★夏休みの宿題も進んで行うことができて、家の中でも最高学年という自覚が見えてきました。二学期もよろしくお願いします。

★進んで机に向かうようになり、「やる気」がとても感じられました。この「やる気」をつぶさないように回りの協力を惜しまずにバックアップしていきたいと思います。三学期もよろしくお願いします。

 

(4)成功体験が生む自信

  私の目の前で変容していったM君の姿を見て、次のことを実感した。


 成功体験は、子どもに自信を与える。
 自信を持つと、子どもは自ら努力ができるようになる。
 ひとつのことで得た自信は、他のことでも自信を持つことにつながる。

 

  そして、教師としての私の役割について、こう考えた。


 子どもに自信を持たせるための「目に見える事実」を作り出そう。
 子どもに自信を持たせることは、「生きる力」を育てることにつながるのだから。

 

  M君は100点を取る以前から、進歩していた。漢字にしても算数にしても、少しずつ学習の仕方を身につけ、少しずつ力を蓄えていたのだ。担任からの「進歩しているよ」というほめ言葉も聞いている。

  しかし、それらはM君に確たる自信を持たせる力は持たなかった。


 M君に確たる自信を持たせる力を発揮したのは、「100点を取った」という 「体験」であった。
 

 

(5)中学生になっても生きた自信

 成功体験を積み重ね卒業していった子達から、メールやFAXが届いた。 

 どれも、中学校での学習や部活に前向きに取り組んでいることが分かる内容だった。

 共通していたのは「やればできる」という自信が彼等のやる気を後押ししているということであった。
 以下に、その文面のいくつかを抜粋で紹介する。


 先生に知らせることがあります。僕は何と、とても重要な学級委員になりました。
僕は小学校で代表委員とかもやったことがないので、正直できるかどうか不安です。
でも、自分を変えるチャンスかも知れないので頑張ってみます。
 漢字テストや算数のテストで自信をつけ卒業していったM君からのメールである。

 そのMから数日後、次のようなメールが届いた。
 学級委員の仕事、もちろん頑張ります。浅川先生から受け継いだ「やればできる」 この言葉を学級目標に出しました。サッカーも頑張ります。
 

 二重とびが最後の最後にできた子からは、次のようなFAXが届いた。
 先生が何よりいちばん大切なことを教えてくれたのは、“やればできる”です。
 私が2年間練習して、なかなかできなかったもの、それは二重とび!
 5年生の時は全然練習しませんでした。みんな次々にできるようになり6年生。残ったのは、とうとう私1人。
 あせった私は先生が何回もしつこくうるさいほど言った言葉を思い出しました。 “やればできる”1ヶ月頑張ったら2回が5回に、10回が25回に、今は35回もとべます。
 勉強でも何でも人間やればできるのさ!合い言葉は“やればできる!”

 

 自分の弱さと向き合い、クラスの中にあった差別とたたかい、成長していった子からは、次のようなメールが届いた。
 僕は、バレーボールクラブに入りました。バレー部は超超超超厳しい部活です。でも、僕はそんな厳しい部活に入ります。学級員の委員長にもなりました。
 こんな勇気が出るのも、心が強くなれたのも、先生の教えてくれたことがあったからです。本当に感謝しています。
 いま、とても勉強が楽です。これはずっと続けてきた自学ノートのおかげです。
「努力の壺」はすごいなあ!

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