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なわとびで「やればできる!」を体験させる

浅川 清(TOSS相模原)

@なぜ、なわとびなのか?

・「できる」ために、どうしても必要な「練習」が、「いつでも・どこでも」できるからである。
・「できた」ことが「はっきりと自覚できる」からである。

 

A目標を示す

 5年生39人のクラスを受け持ったとき、二重とびが1回も、とべない子が19人いた。
 全員に呼びかけた。

「全員、二重とび五回以上、とべるようになろう!」
 
  呼びかけた後、子ども達に聞いた。

 「そんなの、絶対無理だと思う人?」

  一人も手を挙げなかった。

 このクラスになってから、いくつか「全員できた!」という事実を、体験ずみだったからである。

    ★とび箱を全員とんでいた。

    ★漢字テストで「全員百点」を達成したことがあった。

    ★三十首の俳句の暗唱が全員できていた。

 全員、やる気でいることを確かめてから、次の段階に進んだ。

B練習方法を示す

 「挑戦」させるからには「成功」させなければならない。
「やればできる」を体験させるために仕掛けたのだから。
いろいろな本で知った「二重とびができるようになる練習方法」を、
もう一度確かめて作戦を練った。


・1回旋・1跳躍のとび方が30秒間に100回というペースで、できるようにする。
・(なわとびは持たず)1跳躍する間に、胸の前で両手をパンパンと2回たたく練習
 をする。
・(なわとびは持たず)1跳躍する間に、体側を両手でパンパンと2回たたく練習を
 する。
・なわとびの両方の柄を片手に持って、1跳躍する間に、なわを2回旋させる練習を
 する。
・二重とび1回に挑戦する。
・1回でも二重とびができたら、普通のとび方数回→二重とび1回→普通のとび方
 数回→二重とび1回のように、二重とびと二重とびの間に普通のとび方を数回入
 れて体勢を立て直しながらとぶ練習をする。
・間に入れる普通のとび方の回数を徐々に減らしていく。

 

 まず、右のような練習方法を体育の時間に教え、@から順にクリアーさせていった。
  1ヶ月で、19人中13人が、とべるようになった。次の1ヶ月で、2人がとべるようになった。
2学期が終了する時点で、残るのは、4人となった。           

 いずれも「なわとびは大の苦手」という子達だった。その内の2人は、「勉強も大の苦手」という子達だった。
これまでの成功体験の少なさが、推し測れる子達だった。     

C励まし続ける                              

 体育の時間には毎回練習タイムを取った。「絶対とべるようになるから」と言い続けた。

 しかし、なかなかとべないまま時間が過ぎていった。               

「どうせ、できないさ」という、あきらめムードが漂い始めた頃、ある女の子が、
次のような日記を書いてきた。「しめた!」と思った。


  こないだ、私は、目を丸くして、おどろいたことがありました。
  たまたまO君の家の前を通りかかった時、O君が二重とびの練習をしてました。
  私は、まさかO君、毎日こつこつやってるんじゃ・・・と思い、O君の近所の
 Aさんに聞いてみると、そのとおり、毎日練習してるらしいんですよ。
  その時、私は、とても感心しました。

 

 この日記をクラスのみんなに紹介してから、しばらくすると、O君自身が、

「先生、今日はここまで、できたんだよ。」

と、報告にくるようになった。

 1回だけなら、確実にとべるようになっていたので、練習ステップEFをやってみるよう勧め、

「もう、とべる力がこのへんまで貯まってきているから、もうじきだよ。」

と励ました。

D波及効果をねらう

  2月20日、とうとうO君は、二重とび5回以上という目標を達成した。私が朝から出張で、
学校にはいない日のことだった。その日の、ある男の子の日記である。


  2月20日(水)  天気・晴れ
今日のなわとびタイムは、いつもとちがう。
なぜならO君が二重とびを5回以上とんだからだ。
これぞ『地道な努力はむくわれる』だ。

 

 もちろん、この日記も、クラスのみんなに読んで聞かせた。

 併せて学級通信にも、これまでの経緯を書き、次のような文章で快挙を讃えた。


 朝休みに私が校庭を見ていたら、ちょうどO君が6回くらい二重とびをしたのが
目に入りました。
「あれっ?今O君、5回以上とばなかった?」
と驚く私に、そばにいたK君が教えてくれました。
「昨日のなわとびタイムで5回以上とべたんだよ。」
 さっそく、その場でO君と握手をしました。
 教室でも、前に出てもらって、みんなで拍手をしました。大いに照れていました。
苦労しました。投げやりな気持ちになったこともあるでしょう。よく続けて、がん
ばれました。苦労が大きかった分、この「やったあ!」は、これからのO君を内側
から大きく変えていく力になると確信しています。
 おめでとう!心からの拍手を贈ります。

 

 さて、こうなると、あとの3人もがんばらざるを得なくなる。目の前で「自分と同じようにとべなかった」
O君がとべるようになったのだ。3人の顔には、プレッシャーと共に、「絶対、自分もとんでやる!」
という決意があらわれていた。

 O君の快挙から、ちょうど一週間後、今度はS君がとべるようになった。体育の時間、
S君の二重とびを見せてもらい、みんなで喜び合っている最中に、何とH君までとべるようになった。
担任して以来、約1年間が過ぎていたわけであるが、この時ほど嬉しそうなH君の顔は、見たことがなかった。

E学級通信で「やればできる!」を支えたものを確認させる

 S君とH君が立て続けにとべるようになった日の、ある男の子の日記である。


   おめでとう日記
 今日、S君とH君が二重とびを5回以上とんだ。目標達成まで、あと一人。
(がんばれ!M君)
 思えば長い道のりを歩いてきて、もう直前にゴールがあるのだ。
(君のゆく道は、はてしなく遠い)
 だが、ぼくをふくめ、18人の人がゴールにたどりつき、最後にM君がたどり
つこうとしている。そして、みんな本当のゴールにたどりつけるのである。
 二重とびをたくさんの人が5回以上とべたのも、一人一人の努力と、みんなの
熱い応えんがあったからだ。
 これは、やればできることをしめしている。
 だから、この目標は、すごく役にたったのである。

 

  最後の最後のM君が「5回以上」を達成したのは、この日から2週間後だった。

  M君の熱心なコーチ役となったのは、とべるようになったばかりのS君とH君だった。
S君は「M君をとばせる会」の会長を引き受け、M君を応援し続けた。(もちろん副会長はH君だった。)
その頃のS君の日記を紹介する。


 今日の20分休みにぼくがM君に二重とびを教えていたら、なんとM君が2回と
べました。そしてぼくが
「よし、M君、そのちょうし」
といったら、M君はますますやる気が出てきました。

 

 彼らを、かげながら応援する子達もいた。その頃の、ある女の子の日記を紹介する。


 今日の20分休みに、笛を吹きながら外を見ていると、M君が二重とびの練習を
していた。
 見てると、最初にH君とS君が見本を見せてあげて、次に続けてM君がとんで、
それを見て、またとんであげたりしていた。外に出て見てみたら、しんけんな顔で
とってもがんばっていた。
 

 毎日練習を続け、3回までは、とべるようになった日のM君の日記を紹介する。


 3月13日、昼休みに外に出て、みんながドッチボールをやっているのを見ながら
二重とびの練習をしていたら、Y君がこつを教えてくれた。そしたらS君もきてY君
といっしょに教えてくれて何回かとんでいたら昼休みのおわりのチャイムがなったか
ら校しゃの中へはいる直前にもう一度とんでみた。すると1回、2回、3回、三回と
べた。そこでまたとんでみたら、また3回とべた。そしたらS君が「すごいじゃん」
と言った。そしたらもっとやる気がでた。

 

 みんなの応援に支えられ、M君が「二重とび5回以上」を達成した次の日の学級通信には、
前記4つの日記を載せ、次のように書いた。


 我がクラス、最大にして最良のドラマが、昨日生まれました。
 遂に最後の一人、M君が「二重とび5回以上」を達成したのです。N君が左の日記
を書いてから、半月後の快挙でした。
 昨日の朝、私が教室へ入るなり、「M君が5回以上とべたんだよ」という報告がとび
こんできました。
「えっ、何回とべたの?」
「14回!」
「ワオ!」
驚きました。
「M君、とんで見せなよ!」と、子ども達。
「えっ、でも教室でとぶと足に悪いよ」と私。
「見せたいんだって!」と、子ども達。
 黒板の前でとんでもらうことにしました。緊張してNG3回ほどした後、見事8回
続けてとべました。期せずして大きな拍手がみんなから寄せられました。
 N君の日記にもありますが「思えば長い道のり」でした。まさに「君のゆく道は果
てしなく遠い」でした。
 でも、とうとう大きなゴールにたどりつくことができました。
 一人一人の「やったあ!」のかげには、必ず友達の応援がありました。
 とてもとても価値のある「全員二重とび5回以上達成」だと思います。

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