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「わらぐつの中の神様」で要約力を鍛える

浅川 清(TOSS相模原)

「わらぐつの中の神様」(光村5年下)の授業をした。充分に読み込ませ、やさしい問題をたたみかけてから、 「要約する」「主題を書く」「起承転結に分ける」などの学習に挑戦させた。

以下に授業の様子を示す。  

1.充分に読み込ませる  
どのページも10回以上読んだという状態にするために、あの手この手で繰り返し音読をさせた。
「完璧読み」というやり方も取り入れた。指定された範囲を、「完璧に」読むことに挑戦させるという方法だ。

 「一カ所でも一文字でも、まちがえたらアウトです。句読点のないところで意味もなく間を空けてもダメです」と申し渡しておく。
 
  列毎に、読む範囲を指定する。読ませる範囲は2〜3行から多くて半ページまでである。長いと、だれる。
 練習時間を取る。読む範囲が広ければ長めに取るし、狭ければ短めでよい。いずれにしても3〜5分で充分である。それ以上取ると、だれる。  短い方が、どの子も集中して音読練習に取り組む。  
              
 「1の列で完璧読みに挑戦したい人、起立。」
 と促すと、ほとんど全員の子が立つ。
 「挑戦者が5人いますね。先生の予想を言います。合格するのは一人です。」
 と、断定的に言う。ゼロと予想することも多い。

 
 どの子も自分こそはと意気込んで読み始める。しかし、大抵は2〜3行でアウトになってしまう。
「完璧読み」は、そう簡単ではないのである。初めは、列で1人合格すればいい方だ。
 クラス全体でも1〜2人がいいところである。  
だが、回を重ねる毎に、確実に合格者は増えてくる。漢字の読みや難しい言い回しは確かめるようになる。
 練習にも真剣みが加わる。  ひとつの場面を数人が読むことになるから、知らず知らずのうちに全文を読み込むことになる。
 おすすめの方法である。


2.やさしい問題をテンポよく出して答えさせる  

3.おばあちゃんの昔語りの部分を要約させる


「3つのキーワードを、ノートに書きなさい。」と指示し、
全ての考えを板書させ、「いちばんおかしいもの」から消去していった。

 

主人公である「おみつさん」と相手役である「大工さん」は当確となった。
残るひとつが「わらぐつ」なのか「雪げた」なのかで討論になった。  

わらぐつ派の根拠
○わらぐつがおみつさんと大工さんを結びつけたんだから。 ○雪げたよりわらぐつの方が何回も多く出ているから。 ○どの場面にもわらぐつは出てくるけど、雪げたの出る場面は限られているから。 ○題名が「わらぐつの中の神様」だから  

雪げた派の根拠
○おみつさんが雪げたをほしいと思わなかったら、大工さんに出会わなかったから。 ○わらぐつを作って売ろうと思ったきっかけは、雪げただったんだから。 ○雪げたも初めの方から終わりの方まで出てくるから。 ○雪げたのことを詳しく書いたところがあるから。  

討論前は、わらぐつ派U雪げた派=3:2だったのが、討論後は5:1になった。  結論は保留して、要約に移った。

 「まず、キーワードを『おみつさん・大工さん・わらぐつ』にして要約してみなさい。字数は30字以内です。主人公はおみつさんですから、『〜おみつさん。』となるようにしなさい。」と指示した。
 
「わらぐつを通して大工さんと出会い、幸せになったおみつさん」
「わらぐつを作って大工さんとめぐりあったおみつさん」
「わらぐつがきっかけで大工さんと結婚したおみつさん」
などの要約文ができた。


「次に『おみつさん・大工さん・雪げた』をキーワードにして要約してみなさい。」
 
すると、次のような要約文になってしまった。
「雪げたがほしくてわらぐつを作り、大工さんとめぐりあったおみつさん」  

この結果から、「わらぐつ」はどうしてもキーワードとして必要だけれど、
「雪げた」はなくても困らないということが、はっきりした。



「転」を問えば
「起」も「承」も「結」も見えてくる
 〜「わらぐつの中の神様」の授業〜


 
 「わらぐつの中の神様」(光村5年・下)の学習中、「転はどこからか」という発問をしたら討論になった。
 熱のこもった討論となった。討論の中で、子ども達は「起」も「承」も「結」も検討していった。
 

以下に授業の様子を記す。

発問・1 
おばあちゃんの昔語りの部分だけを起承転結に分けるとしたら、
「転」が始まるのはどこですか?ここからだというところに線を引きなさい。

 上記のように発問してすぐ、「転とは何か」を説明した。

説明・1 
「転」というのは、物語の中でいちばん大きな変化があるところです。
こんなふうにも言えます。(と、下記のような板書をした)

 
3分後、「まだ書けていない人?」と問い、全員が書けたことを確かめた。  
次に、ページ毎に「このページに線を引いた人?」と問い、線を引いたところで挙手させた。  
子ども達が線を引いたところは6カ所あった。  
「最もおかしいものはどれですか?」という問いにより、そのうちの4つは消去された。
最後まで残ったのは、次の2つである。  

 @P56のL1「その夜、おみつさんは〜」から。
 AP59のL6「やがてお昼近くなって〜」から。

 

@とA、それぞれの支持者の数はちょうど半々に分かれた。「よし、討論しよう」ということになった。  
@かAか、論争の最初の論点は「大きく変化しているか」という点だった。  

@派の主張は次のようだった。
 親にねだるだけでなく、おみつさんが自分で働いて雪げたを買おうと決心したんだから、おおきな変化だ。だから「転」はここからだ。
 

A派の主張は次のようだった。
 それまでわらぐつが全然売れなかったのに、ここから大工さんが登場してわらぐつを買ってくれたんだから、大きく変化している。だから「転」はここからだ。
 

この論点に関しては、どちらももっともだということで、次の論点に移った。  
2つ目の論点は「『ところが』に合うか」という点だった。  

@派の主張
 「その夜〜」のところをナレーターの言い方に直すと「おみつさんは雪げたのことをあきらめようとしました。『ところが』今度ばかりは何としてもあきらめきれません」となるから、合う。
 

A派の主張
 おみつさんはわらぐつが少しも売れないので、もう帰ろうかと思っていた。
 「ところが」大工さんが来て買ってくれたんだから合う。

 

2つ目の論点についても、両派の説が成り立つことが分かり、更に新たな論点を設けることにした。
次の4つの論点を教師が提示した。  

1.3つのキーワード(おみつさん・大工さん・わらぐつ)が入っているか?
2.モチーフ(心をこめて・心を分かって)が入っているか?
3.主題(真心は人と人を結びつけ幸せをもたらす)と深く関わる「変化」か?
4.物語全体の中で重要な意味を持つ「ところが」か?

 

これら4つの論点について、ひとつひとつ検討していった。 その結果を表にまとめてみる。

論  点 @派の「転」 A派の「転」
3つのキーワードが
入っているか?
「大工さん」というキーワードが出てこない。 3つのキーワードが全部出てくる。
モチーフが入っているか? 「心をこめて」というモチーフだけ出てくる。 「心をこめて」も「心を分かって」も出てくる。
主題と深く関わる 「変化」か?   「心をこめて作った」というだけの場面である。   「真心は人と人を結びつけ、幸せをもたらす」という主題にぴったりの場面である。
物語全体の中で重要な意味を持つ 「ところが」か?  物語が始まるきっかけを作っただけの「ところが」である。   物語全体の方向を大きく左右する「ところが」である。
 上記のような結果となり、A派の考えを支持する子が圧倒的多数になったところで討論を終了した。
討論の過程で、@派が「転」としたところは、実は「承」だということが分かってきた。
「転」と「承」が明らかになれば、自ずと「起」や「結」も見えてくる。  
討論の中で「ここまでが起で、ここまでが承なんだから、ここからが転で、結はここから」
と主張する子も出てきた。                          
「転を問えば、起も承も結も見えてくる」のである。    
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